今回はICUでよく遭遇する疾患である敗血症の記事です。
敗血症はセプシス(あるいはゼプシス)という略語でも呼ばれており、ICU看護師ならしっかりと理解しておきたい疾患の一つです。
今回の記事では敗血症の診断で使用される「SOFAスコア」や敗血症の新ガイドラインである「Sepsis-3」についてまとめました。
とくに新人ICU看護師さんは学んで欲しいことなので、是非参考にして見てください。
敗血症とは?
敗血症とは「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」と定義されています。
少し分からずらいので噛み砕いて言うと「何らかの感染が原因となって臓器が障害を受け、身体の状態が悪化した状態」です。
ここでポイントなのは「臓器障害」というキーワードです。
敗血症=感染症と理解している看護師が多いと思いますが、正確に言えば感染症により臓器障害を及ぼす疾患が敗血症です。
菌血症と敗血症の違い
混同されやすいですがこの2つは別物です。
菌血症は血流中に細菌が存在する状態であり、菌血症は感染症によって起こることもあれば、歯磨きが原因で起こることもあります。ほとんどは、少量の細菌が存在するのみで、症状なく体内から自然に除去されます。
しかしときに菌血症から敗血症に至ることがあります。
敗血症は感染症により臓器障害を及ぼす疾患。菌血症は血液中に細菌が存在する状態。
敗血症のガイドラインの話
ガイドラインとなると難しい話と思われそうですが、ガイドラインを知ることで敗血症という疾患が理解できます。新人看護師さんも是非目を通して下さい。
敗血症のガイドラインは2001年以来、15年ぶりの改定が行われ。2016年にアメリカ集中治療医学会(SCCM)より、敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第3版、いわゆるSepsis-3が発表されました。
定義の変更
新ガイドラインでは、敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」と定義されました。
ポイントは重症敗血症という単語を使用しなくなった事です。
以前は臓器障害のある敗血症と臓器障害の無い敗血症に分類されていましたが、新定義では敗血症は臓器障害をともなう病態であるとされました。
これによって敗血症と敗血症性ショックの2分類のみになりました。
敗血症と敗血症性ショックの2分類になった
以前までの重症敗血症は無くなった
SIRS基準が除外された
感染によって引き起こされた全身性炎症反応症候群をSIRS(systemic inflammatory response syndrome)と呼びます。
以前までの敗血症は、感染の存在に加え、SIRS項目の
①体温>38℃または<36℃
②心拍数>90/分
③呼吸数>20/分またはPaCO2<32 torr
④白血球数>1,2000 <4000/m3または未熟型白血球>10%
の2項目以上をみたす病態と定義されていました。
しかし新定義ではSIRS基準が敗血症の診断において用いられないようになりました。
しかしSIRS自体は感染の特定には非常に有用という声も多く、バイタルサインと日常の検査項目で診断できるため、感染症を疑う場面では今後も活用されると思います。
敗血症とSIRSの関連性は無くなった
敗血症性ショック
敗血症性ショックについては、従来は「十分な輸液にもかかわらず持続する低血圧を伴う敗血症」と定義されていましたが、「十分な輸液」と「低血圧」の意味が不明確でした。
その結果、「十分な輸液負荷に関わらず、平均血圧65mmHg以上を維持するために血管作動薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/Lを超えるもの」が敗血症性ショックと定義されることになりました。
以前血圧の記事でも記載しましたが、上記の理由でICUでは収縮期血圧より平均血圧を重要視する場面が増えています。
https://midaneko.com/post-270/
敗血症ショックの診断基準には平均血圧が重要となった
敗血症の診断ツール:SOFAスコアとqSOFAスコア
敗血症は抗生剤の投与が1時間遅れる毎に死亡率は約4%上昇すると言われており、早期発見・早期介入が重要とされています。
敗血症を早期発見する為に『SOFAスコア』と呼ばれる診断ツールが提案されました。
また敗血症の判断場所が病棟まで拡大される指針が盛り込まれました。病棟でも使用できる敗血症の診断ツールとして『クイックSOFA』が提案されました。
敗血症の早期発見のための診断ツールとして、SOFAスコアの評価が推奨されている
ICU以外や臓器障害を呈していない患者さんのスクリーニングとしてqSOFA(クイックSOFA)が提案されている
qSOFA(クイックSOFA)
①呼吸数22回以上/分
②意識レベルの低下
③収縮期血圧100mmHg以下
ERや一般病棟で、感染症が疑われたうえでqSOFAの3項目中2項目を満たすと敗血症の可能性が高いと判断されます。
感染症(疑いも含む)+qSOFA2項目以上該当の場合は、SOFAスコアの採点をおこない、それが2点以上であれば敗血症と診断されます。
ちなみにqSOFAが2項目該当しなくても、敗血症が疑われた場合はSOFAスコアによる判断を行ってもよいです。
SOFAスコア
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日本BD 感染症アラカルト:「敗血症」の定義が変わった 〜新しい定義をどのように運用するか〜より引用
SOFAスコアはICU入室患者さんの予後予測に有用であるとされています。
感染症(疑いを含む)患者さんのSOFAスコアが、ベースラインから2点以上の上昇を敗血症と診断します。
qSOFAと違い血液ガス採血の結果や昇圧剤の評価も必要となるので、ICU以外で使用されることは少ないと思います。
Sepsis-3で感染症発症の48時間前と発症24時間後での評価がされていたので、評価のタイミングはICU入室時と24時間ごとになっている施設が多いかと思います(筆者の施設もそうです)。
ICU入室時とその24時間ごとのSOFAスコアの変化(2点以上の増加がないか)で判断するとなっています。
ICU看護師はSOFAによるアセスメントを行おう
敗血症の患者さんの場合は、敗血症に対するアセスメントが必要になります。
血圧や発熱などの項目でのアセスメントもいいかもしれませんが、ICU看護師なら是非SOFAスコアを用いたアセスメントを実践して欲しいと思います。
例えば前日のSOFAスコアと比べるだけでも、「前日のSOFAスコアと比べて2点マイナスとなっており、状態は改善している」とアセスメントする事ができます。
まとめ:敗血症治療には看護師の役割は重要
・敗血症は感染症により臓器障害を伴う疾患
・敗血症は『敗血症』と『敗血症性ショック』の2分類
・敗血症の発見にはSOFAスコアやqSOFAといった診断ツールが有効
・敗血症性ショックの診断基準には平均血圧が重要
敗血症と診断するのはあくまで医師であって看護師がするわけではありません。
しかしバイタルサインの変化や感染兆候をいち早く 気付くことができるのは、患者さんのそばにいる看護師です。とくに新定義で推奨されたqSOFAは簡便で使いやすいので、看護師がスクリーニングし医師へ報告することで早期発見・早期治療が行えます。
血圧低下を伴う敗血症性ショックでは、抗菌薬投与が1時間遅れるごとに死亡率は7.6%上昇すると言われており、敗血症の早期発見において看護師の役割は大きいのです。