心臓外科の看護ではドレーン管理も重要です。看護師によるドレーンの観察で術後出血が発見される場合もあり、心臓血管外科の術後経過を良好なものにするには、看護師による異常の早期発見が不可欠です。
この記事では①ドレナージの目的、②ドレーンの挿入部位や看護についてまとめました。
開心術後ドレナージの適応と目的
心臓手術の多くは手術中に人工心肺を使用します。人工心肺を使用する際には心肺回路が凝固しないようにヘパリンを使用するので、術後は出血しやすい状態になります。そのため心臓血管外科の術後は、基本的にドレーンが留置されます。つまり心臓血管外科の手術そのものがドレナージの適応となるのです。
では心臓血管外科の術後ドレナージ目的ですが、ドレーンの性状や量を知るための『情報ドレナージ』と、排液が溜まって心臓の動きを妨げないように予防する『予防ドレナージ』の2つの目的があります。
心臓手術の術後はバイタルサインも重要ですが、ドレーンからの出血の程度によっては再開胸の判断にもつながるので、ドレーンから得られる情報も重要となります。
情報ドレナージ
ドレーンの排液から術後出血の有無や出血の程度を判断する。またドレーンの性状から感染の徴候も判断できる。
予防ドレナージ
心臓の周りにたまった血液の排液を行うことで、心臓周囲の臓器の圧迫予防や、心タンポナーデの発生を予防する。
開心術後ドレーンの留置位置
開心術後ドレナージの留置位置は、主に心嚢・前縦隔・胸腔の3か所に留置されます。
心嚢ドレナージ
心臓の周りを覆う膜である『心嚢』にドレーンを留置します。心嚢部には『心嚢液』と呼ばれる液が存在しますが、術後の出血などにより心嚢液が過剰に貯留すると、心臓の動きを妨げてしまいます。この心臓の動きが妨げられた状態を『心タンポナーデ』と呼びます。
心タンポナーデは心原性ショックの原因となる為、起こしてはならない合併症です。心嚢ドレナージは心タンポナーデ予防の目的であると覚えておきましょう。
また心臓に最も近いドレーンであり、ドレーンの閉塞や感染には注意が必要です。
前縦隔ドレナージ
胸骨と心臓の間の空間を前縦隔と呼びます。縦隔内に貯留した血液や体液による心臓などの臓器圧迫を予防する目的や、術後出血の有無を確認する為に留置されます。
開心術後に留置されることが多い部位です。
胸腔ドレナージ
開心術時に胸膜を切開するなどして開胸状態になる場合があります。その際には胸腔内へドレーンを留置して血液や体液の貯留を予防します。
手術操作によって開胸状態になる事もあれば、術者がわざと開胸状態にする場合もあります。
術後に大量出血などが起こると、出血によって縦隔が圧迫され心臓や肺の動きが阻害されてしまいます。この時開胸状態であれば、縦隔内の出血は胸腔内に逃がされることになるので再開胸までの時間が稼げるそうです。
つまり縦隔内に血液や体液が過剰に貯留しないように、予防的な目的で開胸が行われている場合もあるのです。
ドレーン挿入中の看護のポイント
開心術後のドレーンの看護としては、①手術直後、②ドレーン留置中、③ドレーン抜去時に分けられます。とくに術直後は、看護師の細やかな観察で術後出血などの異常を早期に発見する事が重要です。
手術直後の看護
術後入室時には各ドレーンの接続がきちんと行なわれているか、ドレーンの固定確認とマーキング、メラサキュームなどの吸引システムがきちんと作動しているか等を確認します。
ドレーンのマーキングは位置の異常を発見する為に必ず行ないましょう。ドレーンと皮膚の両方に印をつけておくことで、位置の異常が分かりやすくなります。
術直後のドレーンは細やかな観察が重要で、とくに術直後は15~30分おきに観察をしましょう。管内に排液が貯留していると、持続吸引の圧がかからなくなるので、こまめに排液バッグへ誘導する事も大切です。またドレーンの閉塞予防のためミルキングもしっかりと行ないましょう。急にドレーンの排液がなくなったっ場合は、安易に止血したと考えず、ドレーン閉塞の可能性を考えましょう。
血性排液が持続すると術後出血の可能性があり、再開胸が必要となることがあるのですぐに報告が必要です。医師によって判断は変わると思いますが、淡血性の排液が急に血性になったなどは術後出血の可能性が高いので要注意です。
持続する血性排液が200ml/H以上あれば注意が必要です。出血量もそうですが、バイタルサインとあわせてアセスメントする事が大切です。とくに出血が起きれば、心拍数が上昇し血圧が低下する為、細やかなバイタルサインの観察は必須です。
術後出血は術後24時間以内におこることが多いので、看護師による細やかな観察が早期発見につながります。
術後出血が疑われた場合は採血で血液凝固の異常が無いかを確認します。術中のヘパリン使用による影響での血液凝固時間が延長している場合は、ヘパリンの拮抗薬であるプロタミンを静脈投与します。
また出血に対しては輸血を行ないますが、プロタミン投与や輸血でもコントロールできない場合は、再開胸で止血を行ないます。
・ドレーンの接続確認、ドレーンの固定確認とマーキング、メラサキュームなどの吸引システム作動確認を行なう。
・排液はこまめにバッグへ誘導する。閉塞予防のミルキングも行なう。
・量が急に増えた、性状が血性になった等は術後出血の可能性が高いのですぐに医師へ報告する。
ドレーン留置中の看護
術直後同様に量や性状の観察を行ないます。マーキングを観察しドレーンの留置位置の確認、ドレーンの固定確認、管内の排液をバッグに誘導したり、閉塞予防のミルキングも同様に行ないます。
患者さんの離床が進むとドレーンが体の下で圧迫されたり、ドレーンの屈曲によるドレーン閉塞のリスクが高くなります。体位変換やリハビリの後はとくに注意しておきましょう。
観察項目としては、排液の性状・量、ドレーン挿入部の出血や感染徴候の有無、ドレーンのマーキング位置の確認、低圧持続吸引器の作動状況(圧・エアリークの有無・呼吸性変動の有無)などを確認します。もちろんバイタルサインと合わせてアセスメントする事が大切です。とくに挿入部の感染は感染性心外膜炎を発症するリスクがあるので、早急に医師へ報告しましょう。
術直後でなくとも、ドレナージ不良による心タンポナーデや術後出血は起こりうるので注意しましょう。
心タンポナーデの徴候
呼吸困難感・頻呼吸・頻脈・低血圧・心音の減弱・意識レベルの低下・中心静脈圧(CVP)の上昇・四肢冷感・皮膚湿潤
・術直後同様に量や性状の観察、マーキングの観察、ドレーンの留置位置の確認、ドレーンの固定確認、管内の排液をバッグに誘導したり、閉塞予防のミルキングを行なう。
・体位変換やリハビリの後はドレーンの屈曲や閉塞に注意する。
・術直後でなくとも、ドレナージ不良による心タンポナーデや術後出血は起こりうるので注意する。
ドレーン抜去時の看護
医師によって基準は異なりますが、24時間の排液量が30ml以下で性状が漿液性となればドレーンの抜去が検討されます。もちろんドレーン抜去前にはレントゲンやエコーで出血や浸出液の貯留が無い事を確認します。
ドレーン抜去時は医師によって、呼気時に抜くか吸気時に抜くかが異なります。吸気時・呼気時のどちらでも安全性は変わらないという意見がありますが、看護師は自施設の医師の手順をしっかりと理解して介助を行ないましょう。
抜去後もドレーン抜去部よりじわじわ排液が出てくることもあるので、適宜観察を行ない、汚染時はドレッシング剤やガーゼの交換を行ないましょう。
開心術後ドレーンのトラブル対応
ドレーンが抜けてきている・完全にぬけてしまった
ドレーンの抜けを発見したらどの程度抜けているか確認し、ドレーンには触らずにすぐに医師へ報告します。
ドレーンが完全に抜けてしまっている場合は、清潔なガーゼでドレーン抜去部を抑え、医師の到着を待ちます。
胸腔ドレーンが抜けると肺虚脱が起こるので、オプサイトなどのフィルムでドレーンの抜去部を密閉してから医師へ報告しましょう。
ドレーンの排液が止まった
バイタルサインや循環動態の観察を行ない、心タンポナーデの徴候があればドレーン閉塞を疑います。ドレーンの流出がみられない場合はミルキングを行ない、呼吸性変動の有無があるかを確認します。
ドレーンが閉塞すると、ドレーンから排液できない出血が挿入部から見られる事があります。
ミルキングをしても流出が無い、呼吸性変動が無い、ドレーン挿入部からの出血などは閉塞の徴候なので注意しましょう。
まとめ
・開心術後のドレナージは『情報ドレナージ』と『予防ドレナージ』の目的がある。
・開心術後は主に『心嚢』『前縦隔』『胸腔』にドレーンが留置される。
・ドレーンが閉塞すると心タンポナーデなどの発生リスクがある為、しっかりとミルキングを行なう。
・『排液量が急に増えた』『性状が血性になった』などは術後出血の可能性がある為、すぐに医師へ報告する。
ドレーン管理は患者さんに近い看護師が行う事が多いです、異常時にすぐに報告できるよう
しっかりと知識を持っておく必要があります。
ドレーンの性状や量は術後再開胸の判断の指標にもなるので、心臓手術において看護師のドレーンの管理は重要なのです。